「好き」を貫く生き方|映画【ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人】

(c) 2008 Fine Line Media,Inc. All Rights Reserved.

※この記事はネタバレを含みます。

小さなアパートから始まった、夫婦のアート人生

「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」
は、ニューヨークに住むごく普通の夫婦が、
世界的に注目される
アートコレクターになった実話です。

郵便局員のハーブと図書館司書のドロシー。

贅沢もせず、住まいはワンルームのアパート。
そんな生活の中で、
彼らは“自分たちの目”で選んだアート作品を、
40年にわたってコツコツと買い集めてきました。

「有名だから」でも
「資産価値があるから」でもなく、
ただ、心が動いた作品を
家賃よりも先に手に入れる。

それがふたりのスタイルでした。

アートのある暮らし

アートって、特別な人のもの?
アートは、難しそう。
お金持ちや専門家のためのもの。

そんな先入観を、この映画は見事に壊します。

ふたりのコレクションの共通点。
それは、
「ミニマルでコンセプチュアルな作品」
が多いこと。
理由はとてもシンプル。
小さなアパートに収まるサイズで、
かつ、制作過程に物語のある作品だからです。

1965年、ソル・ルウィットの作品との
出会いをきっかけに、
「難しくてわからないけど、未来を感じる」
と語ったハーブ。
その直感を信じて、
無名だったアーティストたちの
作品を買い始めます。

彼らは、作品だけでなく、
アーティストそのものをよく見ていたそうです。
下絵もスケッチも全部目を通し、
人生そのものに寄り添うように購入する。
アーティストたちはこぞって
「最初に買ってくれたのはヴォーゲル夫妻」
と語ります。

(c) 2008 Fine Line Media,Inc. All Rights Reserved.

ドロシーとハーブの生き方に見る、“選ぶ”ということ

彼らが持つ審美眼は、
専門家に負けていません。

けれど、彼らにとって
「アートを買う」は投資ではなく、
『好きなものと共に生きる』
という生活の延長でした。

アーティストとも
家族のような関係を築き、
毎週長電話をし、共に歩んでいく。
その姿勢が、“支援”となり、
結果として価値が後からついてきました。

アートが溢れかえったアパートからは、
なんとトラック5台分の作品が。

数々の作品が
ナショナルギャラリーへ寄贈されました。

お金に換えることなく、
名誉のためでもなく、
アートに対するふたりの『愛』に、
真の意味での贈与の美しさを感じます。

(c) 2008 Fine Line Media,Inc. All Rights Reserved.

監督・佐々木芽生さんが映した、ふたりの温かさ

このドキュメンタリーを撮ったのは、
日本人の佐々木芽生(ささき・めぐみ)監督。

彼女はただ面白い夫婦を撮ったのではありません。
その背後にある
“貫くこと”
“信じること”
“愛すること”
を、 丁寧にに追いかけました。

2人への寄り添い方、映像のトーンや構成からも、
その優しい眼差しが伝わってきます。

この映画は、
アートに興味がない人でも楽しめます。
むしろ、
普段アートと無縁な生活をしている人こそ、
「“好き”を信じて生きるって、こういうことか」
と、 気づかされるかもしれません。

“好き”を見つけることから始めよう

ハーブ&ドロシーの生き方に
派手さはなく、
成功を求めたものでもありません。

けれど、自分の目と感性を信じて、
ふたりで続けてきたその時間こそが、
最高のアートだと思いました。

この映画が観てから、
何かを“買う”という行為が、
少し変わった気がしました。

買うだけでなく、
選ぶ、手に取る、食べる。
値段やスペックよりも、
「好きかどうか」を大切にしたくなりました。


徳島の県南、
人口約3,500人の町
牟岐町(むぎちょう)。

この町にもう一度、文化の灯をともしたい
そんな思いから、
私たち「シネマ牟岐」は動き出しました。

今や映画は、映画館で観るものから、
家で観るものへと変わりました。
でもそれと引き換えに、
私たちは何か大切なものを
失ってしまったのではないでしょうか。

誰かと一緒に映画を観ること。
映画を観に行くことが、
その日一日の特別な出来事だったこと。
観たい映画を心待ちにする気持ち。

家では味わえない、ほんの少しの「非日常」を。

この記事に関わったTOCHANSは...

下之坊 竜治

一般社団法人 遊観 理事

「対話する、図書館」としてお寺の一室を運営。イベント開催大歓迎!R7年4月から大学院生として人間学を学びます。 https://yuhkan1030.studio.site/

Share