
徳島県海部郡牟岐町にある
【対話する図書館 遊観(ゆうかん)】
ゆったりと本を読み、語り合い、
ときにはひとりの時間を楽しむ。
そんな“余白”のある場所でありながら、
深く思考し、対話する力を育む場でもある。
そんな遊観を運営しているのは、
元々大手企業に勤めていた
奈々子さんとりゅうちゃん。
ともに都市部の企業で働いた経験を経て、
今は徳島県の右下にある小さな町に根を下ろし、
“全体観”を軸にこの場を丁寧に育てている。
そんな2人に運営する遊観、
そして全体観について話を伺った。
〜プロフィール〜
一般社団法人遊観
2023年1月設立。
同年2月、クラウドファンディングに挑戦。
以降、コンサートやアートペイント、対話、
映画上映などのイベントを開催。
2023年度、2024年度は、
徳島県海部郡で毎年開かれる出羽島アート展の
コーディネーターを担当。
2024年は237名が来館。
りゅうちゃん(下之坊 竜治)
一般社団法人遊観 理事
大学卒業後、2020年に
株式会社パソナグループへ入社。
ギャップイヤープログラムの研修を担当し、
そこで出会った堀江奈々子と意気投合し、
徳島県牟岐町に移住することを決意。
2023年1月に遊観を立ち上げ、
アートや映画などに関連するイベントや
ワークショップを行う。
2025年4月から武蔵野大学大学院に入学し、
人間学を専攻。
堀江 奈々子(良観)
一般社団法人遊観 代表理事
正観寺僧侶
徳島県海部郡牟岐町出身。
進学を機に牟岐町を離れ、
「ひとらしさとは?」
という問いを軸に大学を転々とする。
その後参加したギャップイヤープログラムで
下之坊竜治と出会い、3年前に牟岐町にUターン。
現在は僧侶として
「ひとらしさ」に向き合っている。
“対話”する“図書館”とは?
今日はよろしくお願いします。
まずは、「遊観」の活動内容について
教えていただけますか?
奈々子
はい。
遊観は、“対話する図書館”というコンセプトで、
ゆっくりと本を読むことはもちろん、
本から得たことを誰かと話したり、
本は関係なく、
ただここで誰かと喋りたいという人にも
開かれた場として開放しています。

自習室やコワーキングスペースとしても
使ってもらっていて、
静かに読みたい人のために、
3階には1人で本を読むスペースも
用意しています。

ありがとうございます。
ちなみに最初から“対話する図書館”で
始められたんですか?
りゅうちゃん
いや、ちゃうかな(笑)
奈々子
“対話”は最初からキーワードとしてありましたね。
会社勤めの時、
プレゼンや報告で“伝わる形にしなさい”
ってよく言われてたんです。
分かりやすく、綺麗な言葉で。
でも、それだと自分の思いが
うまく伝えられなくて…。
終業後の上司との飲みの席での会話の方が、
よほど楽しかった。
その時の方が、
私も上司にそのままの思いを伝えられたし、
上司もそのままの言葉で応えてくれた。
そんな裸の言葉で対話してる時間が
私にとってはすごくいい時間、
楽しい時間だったんです。
そんな経験から少しずつ
「飾らない言葉で話せる場があったら」
と思うようになりました。
あと、前職の経験も大きかったです。
学びと実践が半々の少し特殊な部署で、
農業やアートにも触れました。
ある時、農について学んでいる時に
講師から「土って何でできてる?」
と聞かれて、思考が止まってしまって。
でも、そこから自然への理解や
感謝が深まりました。
そうすると、
世界が面白く見えるようになったんです。
学ぶこと、考えることが、
世界を面白くしてくれるし、
人や自然に寛容になれると思ったんです。
そんな気づきが、「遊観」に繋がっています。

“図書館”という発想についてはいかがですか?
りゅうちゃん
元々は自分の思いを表現したり、
人の表現を聞いたりみたりできる場所に
なるといいなと思っていました。
最初の頃は月に1回イベントをしたりもしてて。
今と変わらず、フリースペースのような場所として
開放はしてたんですけど、
もう少しフックになるものを
つくりたいなと思い始めるようになって。
僕自身、
本屋さんをしてみたかったのもあるんですよ。
そんな想いもあって、
少しずつ本を置くようになりました。

暮らしの変化と「丁寧に生きる」感覚
お二人とも、大企業で働く生活から
人口3500人ほどの小さな町で
遊観を運営するようになったわけですが、
ご自身の変化はありましたか?
りゅうちゃん
いっぱいありますね。
会社を辞めて、この町にきて3年が経ったんですが、
“ゆとり”というか、“余白”というか、
『暮らしてる感覚』が全然違う。
料理、掃除、畑作業…
何をするにも丁寧にできる環境なんです。
今は、料理するにも材料を買って、
触って、切って、火を入れる。
それだけでも心が満たされるようになったんです。
刺繍を始めたり、畑を耕したり。
丁寧に暮らすって、
こういうことなんやなって思います。
会社員のころも、丁寧な暮らしを
しようとはしていたんだけど、
ほとんどの時間を会社で過ごすことになる。
そうすると、どうしても
仕事の気持ちのまま家事もやったりとかで、
今考えると
全然丁寧にできてなかったなと思いますね。
奈々子
私は会社員に染まりきる前に
出られたのが大きかった。
けど、それでも当時より
時間にも心にも“ゆとり”がありますね。
ゆったりしてる時間って、
自己研鑽でもあるんですよね。
“ゆとり”がないと、
本も読めないし、思考もできない。
やっとちゃんと本が読めるようになった感じです。
遊観が大切にしている“全体観”
生活の変化や、遊観自体の変化も
日々感じられている。
そういった日々も含めて、
遊観が大切にしていることを教えてください。
奈々子
私たちの根底には、
“全体観”という考えがあります。
対話もそのための手段なんです。
私たちは“全体観”について話すとき、
いつもこんな話をします。
同じ水でも
人にとっては飲み物、
魚にとっては住む場所。
存在は同じでも、捉え方が違いますよね。
人間同士でも、自分自身の中でも
見え方は変わります。
2リットルの水を飲んだ後だと、
もちろん、もういらないと言う。
でも、砂漠にいる人だと
欲しくて欲しくてたまらない。
五感で感じ取る世界、
感じ取れるもの・ことはあるけれど、
決まりきった世界はない。
そういったことを
私たちは“全体観”と呼んでいます。
ミクロに、マクロに、
いろいろな視点で物事を見ることで、
偏見がなくなっていく。
私たちはその姿勢を大切にしたいし、
それが「遊観」で育まれたらいいなと思っています。

“全体観”素敵な考えですね!
奈々子
この“全体観”は、
本を読んだり、対話を繰り返したりすることで
身についていくと考えています。
だからこそ、遊観は“全体観”を育む場にしたい。
ぜひ、全体観を味わいにいろんな人が
遊観に遊びに来て欲しいなと思いました!
ちなみに都市でもそ“全体観”を感じる瞬間や
場所ってありますかね?
りゅうちゃん
例えば、本屋に行ったとき、多様な本があって、
ふと手に取った本から価値観が広がる瞬間がある。
先日東京に行った際、
「コミュニティディナー」
という会に参加しました。
知らない人との食事の場で、
自然に対話が生まれて、
“全体観”が広がった感じがありました。
やっぱり「本」とか「対話」を軸にして
いい環境に身を置けば、
都市でもどこでも
“全体観”を感じられると思います。
これから“全体観”を育むために
遊観としてやっていきたいことはありますか?
りゅうちゃん
もっと本を活かしたイベントをしたいです。
あとは、お茶やコーヒーを出したりしながら、
その場にいる人とゆっくり喋る場を
もっと作っていけたらなと思います。
2025年からはシネマ牟岐という
月に2回の映画館もこの場所で始めています。
いろいろな形で
“全体観”を育んでいきたいですね。


のびのびと、いろんなものに触れながら生きていく
最後に、これからの子どもたちや
親世代へメッセージをいただけますか?
奈々子
のびのびと、いろんなものに触れてほしいです。
土でもゲームでも、本でも。
お父さんも子どもも同じように。
りゅうちゃん
僕たち大人がちゃんと立っていることが、
次の世代へのバトンになると思います。
僕もまだまだ自分のことで精一杯ですけど、
それを見て何かを感じてくれたら嬉しいです。
ほんまにいつでも遊びに
来てくれたらなと思ってます。
喋りたいですね。いろんな人と。
奈々子
遊観ではほんまに繕わなくていい。
自分の内から出るものを
そのまま出してくれていいです。
ぜひいつでも遊びにきてください。
本日はありがとうございました!

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