【#3】本当の自分を生きること。本領を発揮すること。

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一人ひとりが、地域が「エンパワーする」ということ

そういった思いの中で、
ヒデさんは暮らしにおいても、
さまざまのチャレンジをしてきたと思います。
そのあたりもぜひ、お聞かせいただきたいです。

世の中を変えていくということを考えた時に、
僕は「意識」と「仕組み」
の両方を変えていく必要があると考えています。

コーチングをはじめ、
娘が生まれるまで僕がやってきたことは
どちらかというと「意識」の変革に
焦点を当てた活動だったんですね。

でも、「仕組み」も変える必要がある。 

これは鶏が先か卵が先かと同じで、
意識が仕組みをつくる部分もあるし、
仕組みが意識をつくる部分もあるので、
両方同時にアプローチしていかないと
世の中は変わらないと思っているんですよね。

当時、僕が特に問題意識をもっていたのは
気候変動や持続可能性の問題だったので、
娘が生まれて1年後に
スコットランドにあるエコビレッジに
家族で移住し、
その頃から「仕組み」をどう変えるか、
ということに焦点を当てるように
なっていったんです。

世の中、社会を変えるということですか?

世の中を変えると言っても、
1人の人間が世の中を変えることなんてことは
到底無理なわけです。

でも、無理だと感じて、
打ちひしがれてればいいのかというと、
そうではありません。 

そこで、一人ひとりが
「自分にもできる」と思えるレベルで、
現実的に世の中の仕組みを変えていくには
どうしたらいいんだ?と考えました。

その中で、トランジション・タウンという
イギリス生まれの市民運動に出合ったんですが、
その時に、「これならいけるかもしれない!」
という風に思ったんですよね。

自分が世界と対峙すると考えると、
相手が大きすぎる。

なので、自分と世界の間に、
自分が住む町や地域コミュニティというものを
はさんでみたらどうか、と考えたわけです。

約3年後に日本に帰国した際、
僕たち家族が移り住んだ町は、
神奈川県の藤野という人口1万人を切るような
かなり小さい町でした。
そんな小さな町だとお互いに知ってる人も多いし、
知ってることも多いので、
自分の延長線上にある感覚があります。

この規模感だったら、
もし自分が同じ地域に住む人たちと
力を合わせて取り組んでいけば、
少なくともこの地域を
より良い方向へ、
より持続可能な方向へ、
変えていくことは可能なんじゃないかと。

そう考えて、僕は藤野で
トランジション・タウンの活動を
始めたんですよね。

今も変わらない部分かもしれないんですけど、
ヒデさんにとって良い社会とは?
世の中をどう変えたいのか?などという
イメージはどのようにお持ちなんですか。

僕にとっては「エンパワーする」ということが、
自分にとって本当の自分を生きる上での
キーワードなんですよね。

 「エンパワーする」というのは、
「その人やもの、集団の本領発揮を支援すること」
です。

コーチングでは
個人をエンパワーしてきたわけですが、
トランジション・タウンでは
地域をエンパワーするという感じで、
エンパワーする範囲が
個人から地域へ広がったという感じがあります。

「エンパワーする」ということについて、
もう少し詳しく教えていただけますか?

もちろんです。

例えば、先ほどの話でも出てきた
「気候変動」という問題がありますよね。

これは自分たちの世代だけではなく、
子どもや孫の世代にも
甚大な影響をもたらす可能性がある。
だから、なんとかしなくちゃいけない。

でも、何ができるのか?と考えた時に、
自分にはどうにもできないという風に
思ってる人が世の中にはたくさんいる。
つまり、「無力感」を感じているわけです。

一方で、地域という限られた範囲かもしれない。
けれども、そこで仲間と力を合わせて、
その地域に明らかな変化をもたらすことができたら
自分にもどうにかできるという状態に移行する。

この状態を無力感に対抗する意味で、
僕は「有力感」と呼んでいます。 

いきなりグローバルな問題を
なんとかしようとして、
無力感に苛まれて何もできなくなってしまうより、
地域という限られた範囲ではあっても、
そこで有力感、つまり自分たちにも
どうにかできるという感覚を持つ人たちが
増えていけば、社会はつながっているので、
その地域で起こった変化が、
さらに他の地域に影響を与えていく。

実際に、藤野のトランジション・タウン活動から
生まれた取り組みで、藤野電力など全国的な影響を
与えたものがいくつかあるんですよね。 

最初に僕が藤野で
「トランジション・タウンをやろう!」と言った時、
他の人たちは「なんとなく面白そうだね」
みたいな感じでした。
まさか自分たちが自分たちの町を超えて
全国的な影響を与えることになるなんて
誰も思っていなかったと思います。

だけど、東日本大震災がきっかけで、
藤野でやってること面白いねって
いろんな取材が入るようになって。
他の地域の人たちが、
藤野の真似をするようになっていきました。

そうすると、
だんだん藤野の人たちが
自信を持つようになりますよね。

自分たちがその気になってやればどうにかできる。
しかも自分たちの地域を超えて
その活動の影響が拡がっていく。

これがすごく大事だと思っています。
まさに「エンパワー」なんですよね。

みんなが、自分らしく生きていく家族をつくろう

すごく理解できました。
今のお話を聞いて、家族という集団は、
最も身近な集団だと思います。
父ちゃんたちへのメッセージにも
なってしまうと思うんですけど、
父ちゃんから家族をエンパワーするために、
どうしていけばいいんでしょうか。

親が自分らしく生きるということが、
我が子が自分らしく生きる上で影響がある
という話の延長線上にあることなんですけど。

自分らしく生きようとした時に、
父ちゃんと母ちゃんが同じ方向を向いてるとは
限らないですよね。
綱引きになってしまうことがよくあります。
俺は自分らしくやるけど、お前は我慢しろとか。

ただ、それは方法論の次元でやりとりしてるから
そうなってしまうと思うんです。

「みんなが自分らしく生きられるような
家族を作っていく」
という目的の次元でやりとりしていれば、
それに関してはおそらく家族は
誰も反対はしないと思うんですよ。

なので、まずは親がその目的にコミットすること。
その上で方法論を考えていけば、
家族全員が自分らしく生きていくための道を
必ず見出すことができるはずです。

家族といえども一人ひとり個性も願いも違います。

でも、違うからこそ、多様性があるからこそ、
つくり出せるものがあるはずです。

そして、もしも家族の中で
みんなが自分らしく生きることを
お互いに応援し合うような関係性が築けたとしたら、
その先の地域や社会の中で
同じ関係をつくるのはとても簡単だと思います。

ありがとうございます。
最後に父ちゃんたちに向けて、
一言メッセージをいただいてもよろしいでしょうか?

何度も言いますが、
「父ちゃんだからこそ、自分らしく生きてほしい」
ということですね!

この記事を読んだ父ちゃん、
一緒に自分らしく生きていきましょう!
ヒデさん、ありがとうございました。

この記事に関わったTOCHANSは...

榎本 英剛

よく生きる研究所 代表

「よく生きる」ことをテーマに独自のプログラムの開発および提供、著作、講演などを行っています。

八木 俊樹

TOCHANTO編集長

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